2025/6/9

自治体の多言語対応ガイド|課題解決と住民満足度向上の具体策

自治体の多言語対応ガイド|課題解決と住民満足度向上の具体策

日本に住む外国人の数は340万人を超え、過去最高を更新し続けています。また、インバウンド観光も急速に回復し、日本の各地域は多様な言語や文化を持つ人々と共に歩む時代を本格的に迎えました。

このような社会背景の中、自治体における情報発信のあり方が、今、改めて問われています。

「在留外国人への情報提供、何から手をつければ…」 「インバウンドを呼び込みたいが、言語対応の予算も人材も足りない…」 「災害時、本当に全ての住民に情報が届くのだろうか…」

この記事では、そんな悩みを抱える自治体職員の皆様へ、多言語対応の必要性から、具体的な課題解決策、先進自治体の事例まで、明日からのアクションに繋がる情報を網羅的に、そして分かりやすく解説します。

なぜ今、自治体に多言語対応が求められるのか?

もはや多言語対応は、一部の国際都市だけの課題ではありません。全ての自治体にとって、住民サービスと地域活力の根幹をなす、重要な責務となりつつあります。

増加する在留外国人と多様化する住民ニーズ

総務省の調査によれば、日本に住む外国人の数は年々増加し、定住化・永住化の傾向も強まっています。彼らは単なる「お客様」ではなく、地域経済や文化を支える「住民」であり、納税者です。子育て、医療、福祉、納税といった行政サービスを、日本人住民と同じように享受できる権利があります。言語の壁によって必要な情報が得られない状況は、住民サービスの公平性を損なう大きな問題なのです。

誰一人取り残さない、インクルーシブな情報発信の必要性

SDGs(持続可能な開発目標)が掲げる「誰一人取り残さない」という理念は、現代の行政における基本的人権の尊重そのものです。言語や国籍を理由に、必要な行政情報から疎外される人がいる社会は、決してインクルーシブ(包摂的)とはいえません。全ての住民が安心して暮らせる社会の基盤として、多言語による情報発信は不可欠です。

インバウンド回復と地域経済活性化への貢献

コロナ禍を経て、インバウンド観光は急速な回復を見せています。観光情報を多言語で発信することは、海外の旅行者を地域に呼び込み、滞在中の消費を促すための重要な一手となります。これは、観光業だけでなく、飲食、小売、交通など、地域経済全体を活性化させる力を持っています。地域の魅力を世界に届け、関係人口を創出するためにも、多言語対応は欠かせない投資といえるでしょう。

自治体における多言語対応の3つの柱

自治体に求められる多言語対応は、情報の性質によって大きく3つの柱で整理して考えることができます。

① 平常時の「生活情報」:暮らしの基盤を支える

ゴミの出し方、国民健康保険や税金の手続き、保育園の入園案内、各種証明書の発行など、外国人住民が地域社会の一員として安定した生活を送る上で、絶対に欠かせない情報です。これらが十分に伝わらないことは、住民の生活に直接的な不利益をもたらし、トラブルの原因にもなりかねません。

② 緊急時の「防災情報」:命を守るための最重要課題

地震、台風、大雨といった自然災害が多い日本において、緊急時の情報伝達は最優先で取り組むべき課題です。避難指示や避難所の場所、災害時の注意点といった「命を守る情報」が、言語の壁によって届かない事態は、絶対にあってはなりません。迅速性と正確性が何よりも求められます。

③ 観光・地域魅力情報:関係人口を創出する

地域の観光名所、伝統的な祭りやイベント、特産品といった情報は、インバウンド観光客を呼び込むための大切な資産です。これらの魅力を多言語で丁寧に発信することで、訪問者の満足度を高め、リピーターや地域のファン(関係人口)を増やすことに繋がります。

多言語翻訳の前にまず取り組むべき「やさしい日本語」とは?

多言語対応というと、すぐに英語や中国語への翻訳を考えがちですが、その前に取り組むべき、より重要で効果的な手法があります。それが「やさしい日本語」です。

なぜ「やさしい日本語」が基本なのか

日本に住む外国人の中には、英語が母国語でない人々が数多くいます。また、日本語を学び始めたばかりの初級レベルの学習者も少なくありません。彼らにとって、不自然な機械翻訳の英語よりも、簡潔で分かりやすい「やさしい日本語」の方が、かえって理解しやすいケースが非常に多いのです。「やさしい日本語」は、国籍を問わず、より多くの人々に情報を届けるための共通言語となり得ます。

「やさしい日本語」作成の3つのポイント

「やさしい日本語」への書き換えは、少しのコツで実践できます。

  • 一文を短くする:「~ですが、~なので、~してください」のような長い文は避け、「~。だから、~。ください。」のように文を区切る。
  • 難しい言葉を避ける: 専門用語や漢語は、分かりやすい和語に言い換える。(例:避難する → にげる、持参する → もってくる)
  • フリガナを振る/分かち書きする: 難しい漢字にはフリガナを振り、単語と単語の間をスペースで区切る「分かち書き」も有効です。

多言語翻訳との最適な使い分け

最も効果的な情報発信のワークフローは、「やさしい日本語」と「多言語翻訳」を組み合わせることです。まず、発信したい情報を「やさしい日本語」で作成します。この段階で、情報が整理され、誰にとっても分かりやすい内容になります。そして、その分かりやすい日本語を原文として、英語や中国語などに翻訳するのです。これにより、機械翻訳を使った場合でも、翻訳の精度が格段に向上します。

よくある課題と解決策|予算・人材・縦割り行政の壁を越える

多くの自治体で、多言語対応の必要性は認識しつつも、いくつかの共通した課題がその推進を阻んでいます。しかし、工夫と連携次第で乗り越えることは十分に可能です。

【予算不足】国の補助金・交付金の活用と費用対効果の高いツールの選択

多言語対応の推進には、国の支援制度を活用できます。総務省の「多文化共生の推進に関する取り組み」など、関連する補助金や交付金制度がないか、まずは確認してみましょう。また、全ての対応を一度に完璧に行う必要はありません。後述するSaaS型のWebサイト翻訳ツールなど、初期投資を抑えつつ、費用対効果の高い施策からスモールスタートすることが重要です。

【人材不足】AI翻訳ツールと専門サービスの連携、地域国際化協会との協働

庁内に翻訳スキルを持つ専門人材がいない、と諦める必要はありません。近年のAI翻訳ツールは非常に高性能であり、日常的な情報発信の下訳としては十分に活用できます。その上で、重要な文書やWebサイトのコンテンツは、プロの翻訳会社やネイティブによるチェックを入れる、というハイブリッドな運用が現実的です。また、地域の国際交流協会や大学の留学生支援室など、外部の専門機関と連携することも有効な手段となります。

【縦割り問題】全庁的な推進体制の構築と情報共有の仕組み化

防災課、市民課、観光課などが、それぞれバラバラに多言語対応を進めていては、翻訳の品質に差が出たり、二重投資が発生したりと非効率です。市長や企画部門が旗振り役となり、全庁横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、多言語対応の基本方針や、翻訳の際の用語集などを共有する仕組みを構築することが、持続可能な取り組みの鍵となります。

【シーン別】自治体の多言語対応・具体的な実践方法

多言語対応は、情報の受け手がどのような状況にいるかを想像し、最適な方法を選ぶことが大切です。

Webサイト:全ての情報のハブとなる公式サイトの多言語化

Webサイトは、24時間365日、時間や場所を選ばずに誰でもアクセスできる、最も公平で網羅的な情報媒体です。生活情報から防災情報、観光情報まで、全ての情報の入り口(ハブ)として、公式サイトを多言語化することは、現代の自治体にとって必須の責務といえるでしょう。

窓口:多言語タブレットや電話通訳サービスの導入

複雑な手続きや個別性の高い相談が行われる窓口では、リアルタイムでの正確なコミュニケーションが求められます。複数の言語に対応した音声翻訳機能付きのタブレット端末や、オペレーターを介して三者間通話ができる電話(映像)通訳サービスなどを導入することで、専門的な内容でも安心して対応できるようになります。

情報媒体:多言語パンフレットやSNSでの発信

ゴミの分別ルールや防災ハザードマップなど、視覚的な情報が重要なものは、多言語版のパンフレットを作成し、転入者への配布や公共施設への設置が有効です。また、地域のイベント情報や緊急のお知らせなど、速報性が求められる情報は、FacebookなどのSNSを活用し、「やさしい日本語」と多言語を併記して発信するのも効果的な手段です。

先進自治体の取り組みに学ぶ!多言語対応の成功事例

他自治体の成功事例は、自らの取り組みのヒントの宝庫です。ここでは3つの自治体の特徴的な取り組みをご紹介します。

【防災】新宿区:SNSや多言語支援センターを活用した災害時情報提供

約4万人の外国人住民が暮らす新宿区では、平常時から多言語での相談対応を行う「新宿多文化共生プラザ」が、災害時には外国人向けの「災害情報センター」として機能する体制を構築しています。また、X(旧Twitter)やFacebookでも多言語での情報発信を積極的に行っており、多様なチャネルで「命を守る情報」を届ける体制を整えています。

【生活】浜松市:外国人学校やNPOと連携した多文化共生モデル

製造業が盛んで多くの外国人住民が暮らす浜松市は、「外国人集住都市会議」の中心的存在として、先進的な取り組みを続けています。市のWebサイトの多言語化はもちろんのこと、外国人学校やNPO法人と密に連携し、子どもの教育支援から日本語学習、就労支援まで、行政だけでは手の届かない、きめ細やかなサポート体制を官民一体で構築しています。

【観光】高山市:官民一体となった観光情報の多言語発信

世界的な観光地として知られる岐阜県高山市は、市と観光協会、民間事業者が一体となり、質の高い多言語での観光情報発信に取り組んでいます。単なる機械翻訳ではなく、地域の文化や歴史を深く理解した上で、旅の魅力が伝わるような翻訳を重視。街全体のブランドイメージを高め、世界中の旅行者を惹きつけています。

Webサイト多言語化が、最も効果的な第一歩である理由

数ある施策の中で、なぜ公式サイトの多言語化が、最も効果的で、最初に取り組むべき施策なのでしょうか。

24時間365日、全ての情報にアクセスできる公平性

Webサイトは、時間や場所を選ばず、誰でも必要な情報にアクセスできる最も公平なメディアです。日中、仕事で窓口に来られない人、電話でのコミュニケーションが苦手な人にも、等しく情報を届けることができます。これは「誰一人取り残さない」という理念を体現する上で、非常に大きな意味を持ちます。

情報の一元管理と迅速な更新が可能

パンフレットや掲示物は、一度作成すると修正が困難ですが、Webサイトなら常に最新の情報に更新できます。情報発信元を公式サイトに一元化することで、情報の正確性を担保し、住民の混乱を防ぐことができます。災害時など、緊急性の高い情報を最も迅速に、かつ広範囲に届けられるのもWebサイトの強みです。

導入・運用コストを抑えやすい

相談員を複数言語で配置したり、全てのパンフレットを多言語で印刷したりすることに比べ、Webサイトの多言語化は、後述するSaaSツールなどを活用すれば、比較的低コストで導入・運用が可能です。限られた予算の中で、最も多くの住民にリーチできる、費用対効果の高い施策なのです。

住民と観光客に届けるサイトへ「Autolingual」という選択肢

「Webサイトの多言語化が重要なのは分かった。しかし、専門知識を持つ職員も、多額の予算もない…」

そんな自治体の現実的な課題を解決し、効果的な情報発信を実現するのが、株式会社Enjuが提供するWebサイト多言語化サービス「Autolingual(オートリンガル)」です。

既存サイトに“タグを追加するだけ”の簡単導入

Autolingualの最大の魅力は、導入の圧倒的な手軽さです。既存の公式サイトのデザインやシステムを一切変更する必要はありません。指定された数行のスクリプトタグをサイトに埋め込むだけで、最短即日から、あなたの自治体サイトを多言語対応させることができます。Webの専門知識がない担当者の方でも、安心して導入・運用が可能です。

自治体特有の専門用語にも対応できる高品質な翻訳

「住民票」「課税証明書」「避難勧告」といった行政特有の専門用語は、一般的な機械翻訳では誤訳されがちです。Autolingualは、Webサイトの表現に最適化された最新のAI翻訳エンジンに加え、

  • 辞書登録機能: 行政用語や固有名詞を登録し、正確で統一された翻訳を実現。
  • プロによる翻訳チェック: 特に重要な情報は、ネイティブ翻訳者による人力での校正も可能。

といった機能で、住民の信頼を損なわない、高品質な情報発信を可能にします。

緊急情報の迅速な発信をサポート

災害時など、一刻も早く情報を発信したい場面でも、Autolingualは真価を発揮します。日本語サイトで情報を更新すれば、即座に多言語サイトにも翻訳内容が反映されるため、タイムラグなく、全ての住民に等しく緊急情報を届けることができます。

関連記事:

(最新版)Webサイトの多言語化とは?方法・手順も解説

まとめ

本記事では、自治体の多言語対応について、その必要性から具体的な課題解決策までを、網羅的に解説しました。

多様な背景を持つ人々が共に暮らす現代において、自治体の多言語対応は、特別な「支援」ではなく、全ての住民の権利を保障し、地域の活力を生み出すための、不可欠な「責務」です。

まずは「やさしい日本語」を基本としつつ、Webサイト、窓口、防災情報など、戦略的に優先順位をつけて取り組むことが重要です。特に、公平性と効率性の観点から「Webサイトの多言語化」は、最も効果的な第一歩といえるでしょう。

「Autolingual」のようなツールを賢く活用すれば、予算や人材の壁を乗り越え、誰一人取り残さない、質の高い情報発信を実現できます。この記事が、あなたの自治体の多文化共生社会の実現に向けた、確かな一歩となれば幸いです。